田無神社の文化財
ご神木とは、霊木や神依木、勧請木とも呼ばれ、神域にある神聖な木のことを指します。古くから、神は物に依りつき具現化すると考えられ、木には神霊が憑依し宿ると考えられてきました。神社によっては、複数の木々がご神木となることや、神社によっては創建されるより前から、そこに木が存在している場合もあります。関東に鎮座する神社では神木になる木として、松や杉、クスノキ等が比較的多いといえます。田無神社の場合、昭和40年頃からご神木はイチョウ5本としてきました。
社殿向かって左のイチョウのご神木は西東京市指定文化財(市指定天然記念物)です。高さ約18メートル、幹回りは3メートルを越える雄の大木です(令和6年現在)。イチョウは落葉樹で、裸子植物の一種であり、雌の木にはギンナンの実がなります。このご神木は西光寺(現總持寺)住職の恵亮と田無村名主の下田半兵衛が西光寺の本堂建て替えの際に、西光寺境内の欅と共に記念樹木として植えたと伝わります。この説が正しいとすると、西光寺の本堂建て替えは嘉永3年なので、樹齢174年(令和6年現在)となります。西光寺(現總持寺)の欅は、寺の門をくぐってすぐ左手にあり、こちらも西東京市の文化財に指定されています。田無神社境内の残りの4本の御神木もイチョウの木です。参拝者に青龍の木、赤龍の木、黒龍の木、白龍の木として親しまれています。
社殿の裏側の木々はクスノキですが、昭和40年頃までは杉林でした。杉林の中の1本はご神木とされていましたが、落雷により傷を負ってしまいました。倒木の危険から伐木されたこのご神木は、田無への急激な工場移転に伴う地下水汲み上げにより最終的に枯れてしまいました。樹齢300年以上と伝わるこの大木は、当時、新宿伊勢丹屋上からも見えた大木でした。もしかしたら、この杉の木は、田無神社が御遷座された江戸時代初期から存在していたかもしれません。現在この旧ご神木は野分初稲荷神社向かって左側に切り株として残されています。
鎮守の杜は悠久で変わることなく続いていくものですが、自然環境に即して言えばそれは正確とはいえません。木は成長し、ときに枯れ、植樹が行われ、新しく増えることもあります。杜が我々に美しさや情緒といった趣を感じさせるのは、自然の様々な表情を四季の変化が生み出すからです。神職にとって、変わることない悠久の自然を保護することは、日々の祭儀と同様に非常に重要な務めと言えるでしょう。これまでも先人たちが自然と共生した生活を営む中で、日本の鎮守の杜は大切に守られてきました。これからも氏子崇敬者と共に、地域との共存を目指し、自然を大切にしていかなければなりません。